by Utayo Furukuni
vol.11
 




Aキャスト −1995−

Cast  in 1995
at  Wedgewood  Room,  Portsmouth


「それはね、君に運命ってものを信じてもらわなくちゃならないよ。
君は運命を信じるかい?」
John Power


久々に、QUIP MAGAZINE Vol.7を本棚から取り出した。う〜ん、自分が書いた文章の幼稚さに、何ともむず痒くなる。だって、今以上に幼稚なんだもの!むず痒くはなるのであるが、それ以上に懐かしい思い出が蘇る。ロンドンに渡って半年後に発行されたQUIP MAGAZINE Vol.7は、グレアム・コクソン、オアシス、キングメイカー、ロングピグス、ホワイトアウト(わぉ!懐かしい)、スリーパー等のインタヴューを掲載、ブリットポップ黄金期をまんま物語っている。手作り要素がまだまだ強い雑誌だったが、スタッフの音楽に対する情熱は誌面に溢れていた。


中でも、キャストのジョン・パワーとのインタヴューは、今もって思い出深いものである。当時は若気の至りで、とことん突っ走ってはいたが、ちんぷんかんぷんな英語でインタヴュー敢行して、相手にとっては迷惑極まりなし!であったろう。伊勢が一緒でなければどうなっていたやら…。おまけにジョン・パワーはリバプール訛りが強かったので、私には宇宙人語にしか聞こえなかったもん…(苦笑)。いや、向こうも同じことを考えていたか…。


―1995年9月6日。雨がざぁざぁ降りしきる、ここ港町はポーツマス。シティセンターより少し離れた場所にあるライヴハウス、ウェッジウッドルームに、紺のリュック・サックをちょこんと背負って、ひょうひょうと現れたジョン・パワー。まるでその辺をフラフラ歩いている男の子となんら変わらないではないか!―


ジョン・パワーとのインタヴュー記事で、私はこう書き始めている。本当にあの日は寒くてねぇ。降りしきる雨も、更に寒さを厳しくした。日本の9月は、まだまだ残暑が残る気候であるが、ぶるっ!としてしまう冷えがイギリスはある。おまけに港町なので、海風も頬に冷たく痛かった。地方都市はロンドンと違い、たとえ街中でも日が暮れれば人もいなくなり、雰囲気がどんよりと暗い。だもの、ライヴハウスは救いの神!人が集まる!明るい!ほっとするわ。ここポーツマスのウェッジウッドルームは、チケットがなかなか売り切れない場所。音楽土壌が弱いのか?どうも盛り上がりにかけるのだ。日本で言えば、名古屋と同じですねぇ〜。なもんで、キャストがチケットをソールドさせ、キッズたちを笑顔でエキサイトさせたことは、「グレイトなことだ!」と、今なお思うのである。


米助の「突撃!隣の晩ごはん!」じゃないけど、いきなりインタビューを申し込み、それを快く受けてくれたジョン・パワーに感謝したい。そして、笑顔で誠実に答えてくれた彼の人柄に、お釈迦様を拝んでいるような気持ちになった。まず、キャスト結成、メンバーとの出会いについてジョン・パワーに質問、インタビューはスタートした。


● まずは、キャストの結成から教えていただけますか?


John Power「ラーズを離れて間もないときから、キャストのアイデアはあったんだよ。でも、なかなか一緒にプレイしたいと思えるメンバーが見つからなくて、実行できなかったんだ。そのうちベースプレイヤーのピーターと出会って、二人でいいドラマーとギタリストを探していたら、キース(Dr)とスキン(G)に出会ったんだ。俺には彼らはいいミュージシャンだってすぐにわかったし、しかも一緒にプレイしてみたら、すごくいい感触だったんだよ」


● それが2年前(1993年)ですね。


J「いや、ピーターとは3年くらい前から知り合いだったんだよ。でも、いいドラマーとギタリストがいなかったんだ」


● 他のメンバー(キースとスキン)とは、どうやって出会ったんでしょう?


J「それはね、君に運命ってものを信じてもらわなきゃならないよ。君は運命を信じるかい?」


● もちろん信じますよ!(伊勢、前に乗り出し、強い口調ではっきり言う)


J「俺も信じているんだよね。本当にその人を探し求めていれば、必ずその人に会える。それが運命ってものさ。そしてそのとき、全ての偶然とか、あらゆるフィーリングを認識できるんだよ。例えばさ、彼らに出会ったとき、俺はすぐに、彼らはキャストにぴったりの奴らだ!と直感したし、それにキャストっていうバンドそのものが、“こいつだ!”って奴を引き寄せてくれるってわかってたんだ。とにかく、時間はかかったけれど彼らと出会えたんだよ」


はっとした。ジョン・パワーが「Do you believe in fate?」と言い、伊勢が「Yes, I do!」と、前に乗り出し、強い口調ではっきり言った。そこにはとてつもない衝撃を覚えた自分がいた。いきなり「Do you believe in fate?」ですよ!このfate(運命)という言葉は、本当に大きな力が働いていて、運命を信じようが信じまいが、やはりどきっとしてしまう言葉なのだ。加えて、ジョン・パワーという人間は、ある意味、悟りを開いた感があり、キャストの存在を、何よりもかけがえのないものとして捉えていた。勿論、自分たちが創る音楽そのものを信じていたということ。


●あなたにとっての“いい音楽”とはどういったものですが?


J「いい音楽っていうのは、音楽を超越しているんだよ。音楽って精神的なものなんだ。宗教体験みたいなものであるよ。見ることも触れることもできない。ただ、かすかな振動が触れるんだ、空気中を伝わって君にね。例えば今、実際に君と俺が話しているのも音楽を通じてだけだろ。それがなければこうして君とは話していなかっただろう?音楽がなければ、俺が人々を一緒にすることなんて出来ない。音楽っていうのはみんなを一つにするんだよ。音楽はネガティヴなくだらないものなんかじゃなく、ポジティヴな愛すべきものなんだ。キャストは、人々にそういうことをわかって欲しいってやっているバンドなんだ。その感情を拡大しようってね。みんなそういう感情を忘れちゃっているからさ。たくさんのいいことを忘れちゃっているよね。まぁ、人生っていうのは、そういつもいつも面白いってもんじゃないけどさ。でもとにかく、今ここにうっすら光っている光があって、それってキャストなんだよ」



もう、賢人に話し掛けているような気分になった。それを「きれいごとのたわごとだ」と思う人がいるかもしれないが、「音楽を精神的な充足のためにやるべきだ」と言い放ったジョン・パワーは、本気であった。周囲が何を言おうと、アルバムがバカ売れしようと、自分自身を見失わず、輝く光臨を目指し向かって行った。


そんなジョン・パワーであるが、サマーソニック05に出演のため、日本にやって来る!キャスト同様にデカイ運命を感じたであろう、ラーズのメンバーとして。どのような経緯でラーズ再結成に至り、ジョン・パワーが参加を決意したかは定かでないが、きっと彼のことだから、精神的な啓示が運命という名のもとであったのでは?往年のファンはきっとサマーソニック05でも、壮絶エンディングの名曲『ルッキング・グラス』を聴いて、身震い、涙するに違いない。


それにしてもポーツマスで食べたフィッシュ&チップスは激ウマ!ロンドンじゃ、あれほど極上のフィッシュ&チップスは味わえません!ジョン・パワーの優しさと共に、ココロ打たれたホカホカの温かさでした。


余談。インタビューから数日後、知り合いが日本から旅行で遊びに来ていた。彼女たちとパブで一杯やって、ほろ酔い気分よろしく、パディントン駅近くのホテルまで送り届けるため歩いていると、タクシーから声が…。なんと、キャストのピーターであった。何故か覚えていてくれて、声をかけてくれたのだ。いやぁ、酔っ払った姿ですみません。知り合いに「今の彼、キャストのピーターだよ」と言うと、「ぎゃ〜!」っと驚いて、タクシーを追いかけていました。追いつくわけない!(笑)



2005-05-16




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