Films index2
directed by Alejandro Gonzárez Iñárritu
2003年9月トロント国際映画祭プレミア公開
by  Violette The Drunk
Christine, Naomi Watts



Jack, Benicio Del Toro



Paul, Sean Penn


ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、そしてベニチオ・デル・トロ。ハリウッドのゴールデンメンバーが揃った映画『21グラム』。タイトルの21グラムは、人間が死ぬと必ず21グラム軽くなるという事実からつけられたもの。それが、心音の重さなのか、体温の重さなのか、魂の重さなのか、悩みの重さなのか、贖罪の気持ちなのか、とにかく何なのかはわからない。それがなんなのかを考えさせる映画だ。




ストーリーは1つの心臓を中心に展開する。

大学教師のポール(ショーン・ペン)と妻メアリー(シャーロット・ゲインズブール)との関係は冷え切っていた。が、ポールがあと1ヶ月の命と宣告されたのをきっかけにメアリーは子供を熱望する。ポールが助かる方法はただ1つ、心臓の移植。ポールは迫る死に怯えながらも臓器提供者を待つ。

クリスティーナ(ナオミ・ワッツ)は、夫と2人の娘に囲まれる主婦。家庭はうまく行っているがかつてはドラッグアディクトだったという暗い過去がある。

ジャック(ベニチオ・デル・トロ)は、子供の頃から刑務所とシャバを行ったり来たりしている危険な男。ある時から自分の行いを償うため、過激なまでに信仰にのめりこむ。家に帰れば2児の父で、今は子供と妻のためにカタギの生活を送る。


ある夜更け、ポールの元に病院からポケベルが入る。臓器提供者が現れたとの知らせだ。病院で移植手術を受けたポールは快方に向かう。ポールは臓器提供者について調べ始める。

一方、クリスティーナは最悪な夜を過ごしていた。夫と二人の娘が交通事故で死んだと連絡を受けた。娘たちは即死、夫は脳死だった。クリスティーナは混乱のなか、夫の臓器提供を承諾する。

ジャックは自分の誕生パーティーのため、愛車のトラックで家路を急いでいた。そして…最悪の事態に巻きこまれ、人生が急展開していく。

臓器提供者がクリスティーナの夫だったことを突き止めたポールは彼女に近づき、傷つき痛みを分かち合う二人はだんだんと惹かれあう。そして、夫と娘を殺したジャックに復讐することを誓う…。


アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥは、大胆な実験が好きな監督だ。前作『アモーレス・ペロス(1999)』でも見せた、編集しまくり手法をこの作品でもっと過激にやって見せた。時系列はめちゃめちゃに切りまくり、貼り付け、挿入し…とにかく編集のテクニックを見せつけた。そのため、映画の前半は事前に作品資料を読んでいる人間にとっても理解するまでに時間がかかる。ただ、後半に近づくにつれてようやく作品の全景が形付けられてくると、ストーリーから目が離せなくなる。かかる時間は人によっても違うだろうが、私は事故が起こるという予感を与えてくれるまで混乱した。


イニャリトゥ監督はこの脚本をこの時系列関係ないままに書いたというから、センスのある監督には違いない。ただ、この切り刻み脚本は役者にとっても難解なものだったらしく、彼は時系列順に並べた脚本を、ペン、ワッツ、デル・トロそれぞれに書き分けて渡したというからえらい手間がかかっている。撮影はメンフィスとニューメキシコ州の砂漠のど真んなか、暗さと空虚感が一気に強調されるロケーション。この映画を撮るとしたらベストなチョイスだったと思う。


さて演技陣。ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デル・トロとオスカーウィナーの顔を常に見られるこの映画はまさにおなかいっぱいという感じなのだが…、やはり光っているのは『ユージュアル・サツペクツ』『トラフィック』のベニチオ・デル・トロである。「目で妊娠させる男」とも呼ばれている“メヂカラ”俳優だけあって、言葉のない演技がすばらしくいい。特にエンディングのナオミ・ワッツとのシーンでは、日本人が得意だったあうんの呼吸というか、ノン・バーバルなコミュニケーションを取り合うところが見事。ちなみにこのシーンはもともとセリフのあったシーンだとか。それを、彼が「言葉はいらない」とサジェスチョンしたそうだ。

ショーン・ペンほど、病衣すがたと呼吸器というか体に管を刺されてる様子が絵になる男はいないのではないかと思う。『デッドマン・ウォーキング』のときもそうだったが、これほど“メヂカラ”のない演技ができるのは彼をおいて他にはいないはずだ。

ナオミ・ワッツの存在感は叫び声の大きさに比例する。この映画でも、怒りや悲しみにくれて彼女は叫びまくる。でも、一番印象深いのは赤の下着姿で歩く姿だったりする…。


相対的な評価は可。確かに編集の技術のすばらしさ、優れた作品の構成能力は認める。ただ、それに終始しすぎて全体的な印象が散漫になってしまった印象は否めない。映画の中になんども出てくる「LIFE GOES ON」というセリフも、21gというタイトルもあとで取ってつけたような印象を与える。ようやく最後のセリフでこの21グラムがなんなのか、という主題に急に引き戻される感覚を覚えて、それが唐突に思えて仕方がなかった。メッセージよりもアート作品として鑑賞したい作品。どう考えても全国ロードショーよりは、単館上映向けだ。


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