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自分を熟成したヴィンテージ・ワインにたとえたい中年の支持を得て、アカデミー脚本(脚色)賞受賞。その他インディペンデント・スピリット賞、各種批評家賞受賞多数。監督は『アバウト・シュミット』のアレクサンダー・ペイン。
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2人の中年男、マイルス(ポール・ジアマッティ、『アメリカン・スプレンダー』)とジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)はカリフォルニアのワイン・ロードを車で飛ばしていた。マイルスは作家志望、英語教師をしながら小説を書いている。ジャックは売れない俳優だがイージー・ゴーイングな気のいいやつだ。マイルスは結婚を来週に控えたジャックのためにバチェラー・パーティーならぬバチェラー・ツアーを計画した。カリフォルニアのワイナリーを車で訪ね、テイスティングを楽しみ、おいしい料理をたらふく詰め込んで人生を謳歌しようというのだ。ワインは彼のテリトリー、得意分野だった。
なじみのワイン・レストランにジャックを案内するマイルス。ウエイトレスのマヤ(ヴァージニア・マドセン、マイケル・マドセンの妹!)、ワイナリーで働くステファニー(サンドラ・オー)たちとダブル・デートにこぎつける。ジャックは独身最後の日々を女の子とやりまくろう!という魂胆だった。望み通りジャックはステファニーと激しいファッキング、一方マイルスとマヤは微妙な距離を置いてワインを語り合うのだった。2人とも離婚経験者で、ことにマイルスはまだ5年前の離婚をふっきれずにいた。
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一方ステファニー(とのセックス)をいたく気に入ったジャックは、婚約者と別れステファニーと一緒になると言い出す始末。しかし、ジャックが土曜に結婚式を控えた身だとバレ、怒り狂ったステファニーに殴り倒され鼻の骨を折る重傷を負う。それでも懲りないジャックはまた別のウェイトレスを引っかけるべく愛想笑いに努めるのであった。首尾よく彼女の家にしけこんだジャックだが、いざというとき女のダンナが思わぬ帰宅、すっぽんぽんで逃げ出してマイルスに助けを求めてきた。服はともかく、置き忘れたサイフにはエンゲージリングが入っていたのだ。婚約者に捨てられたら生きていけない、と子供のように泣き出すジャックに大笑いし、あきれながらも親友のために女の家に侵入、サイフをとりもどしてやるマイルス。挙句の果てに怪我をしたのは車の事故だと見せかけるため、愛車をわざと木にぶつけたりしてぶっ壊され、さんざんな目にあう。
しかしマイルスはジャックに寛容だ。「俺は俳優だ、直感で生きる」とのたまい、次から次に女性に手を出し、ふられても一向にめげない遊び人ジャック。しかしマイルスの小説を賛美し(読んでもいないが)、自分が金を出すから自費出版しろと援助を申し出たり、新しいガールフレンドを作れとけしかけ、ダブル・デートをお膳立てしたり、自分に自信を持てと常に励ましを忘れない。2人は大学時代のルームメイト。もう20年の付き合いになる。ジャックの明るさとノンシャランないい加減さがマイルスの陰な性格とバランスをとっているのだろう。
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人生のちょうど折り返しの地点に立つマイルス。作家志望だがまだ一冊の本も出版していない。今度の作品はエージェントもほめてくれ、いい線までいったのだが、やはり出版社から断られてしまった。俺は中年でこの年になっても何一つ成し遂げていない、と落ち込むマイルス。離婚から5年もたっているのにまだ前の妻とやり直せるのではないかと想い、妻がすでに他の男と再婚しているという事実を知らされるとショックのあまり彼女にいやがらせの電話をしてしまう。一生しがない英語教師で終わるのかと悶々・鬱々とする彼の唯一の救いが「ワイン」なのである。
ワインに対しては手厳しい批評家であり分析家であるマイルス。その批評眼は当然自分自身にも向けられ、彼は常に理想と現実のギャップに悩み続ける羽目になる。マイルスとマヤがワインについて語るくだりがある。ここは映画のハイライトだと思う。マヤはマイルスがなぜ「ピノ・ノワール」にこだわるのかとたずねる。マイルスは真摯にピノ・ノワールの魅力を語る。繊細なぶどう品種であり、栽培に非常に手間のかかる、やっかいな品種だが、そのよさを理解し丁寧に世話をし面倒をみてやればこの上ない極上のワインになる・・・ああ、彼は自分自身のことを語っているんだなあとわかる。こうありたいと願う自分の理想の姿、やっかいだけれどもすこし寛容になって忍耐強く接してくれれば、自分はいいワインのように人を楽しませることができるんだけど・・・。そんなマイルスの内なる、おそらく自分でも意識していない願いがしみじみと伝わるいいシーンである。
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いいワインもおいしい食事も、ともに味わい分かち合う友人がいなければなんの値打ちもない。ひとりぼっちのマイルスが、とっておきのピノ・ノワールを深夜のファミリー・レストランで紙コップにそそいでヤケ飲みしているシーンはそれを教えてくれる。
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