Films
directed by Clint Eastwood
2003年5月23日カンヌ・プレミア公開
by  Yoshiko Ise

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☆結末に関するコメントを含んでいます。


もうひとつの「スタンド・バイ・ミー」を見るために・・・という宣伝文句だが、「スタンド・バイ・ミー」の主役はあくまで少年たちであり、物語がすべて少年たちの視点から描かれていたけれど、この映画は、かつて子供であった男たち、三十歳半ばに成長した彼らとその家族の物語だ。




ボストンのアイリッシュ地区に住む幼なじみの三人の少年たち、ジミー、ショーン、デイヴ。ある日小児性愛者たちにデイヴが車で連れ去られ、監禁される。4日間・・・その間デイヴが何をされたのか、映画は描いていない。誘拐されて性的虐待を受けた子供の体験を映像で追体験するのは耐えがたい。隙を見て逃げ出したデイヴのTシャツもズボンもあまり汚れていないし、森を走って逃げることができたのだから、暴力も手加減されたのだろう・・・と観客に思わせる配慮がどこかでなされていたのだと思う。


25年後の今、デイヴ(ティム・ロビンス)は結婚し、妻セレステ、息子マイケルと静かに暮らしている。デイヴとマイケルは野球好きのどこにでもいる親子だ。


ジミー(ショーン・ペン)は窃盗の前科があるが今は更生し、コンビニを経営している。店は繁盛し、死んだ前妻との間にできた長女ケイティ、再婚の妻アナベスとの間にできた二人の娘とともに順調な生活を送っていた。しかし最愛の娘ケイティが突然何者かに殺されるという悲劇が一家を襲う。このあたりのショーン・ペンは「アカデミー賞もの」演技。あざといが。しかし亡き娘を思う父親の心情を切々と訴えるシーンにはやはり涙した。ジミーは復讐を誓って独自に犯人探しを始める。


この殺人事件を担当するのがショーン(ケヴィン・ベーコン)だ。彼は相棒の刑事ホワイティ(ローレンス・フィッシュバーン)と事件を追う。警察への通報から現場急行、遺体発見、捜査推理。このあたりの運び、カメラワークはスピーディーで緊張感いっぱいだ。さすが「ダーティー・ハリー」でならした監督。捜査線上にしだいにデイヴが容疑者として浮上してくる。デイヴの妻セレステは殺人当夜腹部に傷を追い、服を血だらけにして帰って来た夫に疑いを持ち始める。精神的に不安定で妄想に悩まされている夫デイヴの無実を信じることができない。ケイティを殺したのはデイヴだと確信した彼女は、悩んだ末、それをジミーに告白してしまう。〈なんと馬鹿な女!〉


ジミーはデイヴを川沿いのパブに誘い出し、酔わせて問い詰める。観客はデイヴが犯人ではないと知っているのだ。ショーンとホワイティが真犯人を追い詰めていた。ケイティのBFブレンダン・ハリスの弟とその友達が、銃を持ち出し、偶然出会ったケイティに向けたところ暴発してしまったのだ。デイヴはその時間、他の場所で別の人間を殺してしまっていたのだ。少年を食い物にしていた同性愛者だった。しかしなぜかケイティを殺したのは自分だと言ってしまうのだ。楽になりたかったのだろうか。少年時代の事件以来ずっと苦しんできた。彼はそれを表には出さずじっと自分の胸に収めてきたが、もう限界だったのだろうか。彼には守ってやるべき息子マイケルがいたのに・・・。


ジミーはデイヴを刺殺、死体を川に流す。この場所は、行方不明とされているハリス兄弟の父親を、十数年前ジミーが殺したところだったのだ。
ミスティック・リバーというタイトルから、川が重要な背景になり、登場人物たちのよりどころとなっているのかと思っていたが、川は実は因縁の墓場だったのだ。


無実の人間を殺してしまったと知ったジミーがどうするか?結局彼は自首もせず平和な市民生活にもどっていく。そうさせたのは妻アナベスだ。


登場する二人の妻、アナベス(ローラ・リニー)とセレステ(マーシャ・ゲイ・ハーデン)。2人はいとこ同志だ。セレステは夫の苦悩にどう対処していいかわからず、無実の夫を自分の愚かさ故に売り渡してしまう。しかも警察ではなく、ジミーに。この女の愚かな選択がなかったらデイヴは死なずにすんだかもしれない。


そしてアナベス。「愛するもののためなら何でも、どんなことでもする。そしてそれは誰がなんと言おうと正しいことなのだ。私たちは強い。すべてを乗り越えていく・・・」この言葉をすり込んで、ジミーを罪の意識から逃れさせる。


ボストンの町でにぎやかなパレードが行なわれる。さまざまな山車が通りをすぎる。デイヴの息子、マイケルの乗る野球チームの山車。しかし、セレステの声援にもマイケルはうつろだ。大好きな父はもういないのだ。セレステの(そしてデイヴの)選択はマイケルを父のいない子にしてしまった。セレステとアナベスがじっと見詰め合う。セレステの訴えるような視線にアナベスは眉ひとつ動かさず平然と見返す。男たちが主人公の映画だけれど、見終わって最も心に残ったのはこの二人の女(妻)たちだった。


音楽もイーストウッド監督が担当。
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