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前作『ボウリング・フォー・コロンバイン』で、全米ライフル協会会長、チャールトン・へストンをこけにしまくったマイケル・ムーア。居丈高な権威主義者、権力をかさにいばりちらすヤツをみると噛みつかずにはおれない活動家の面目躍如である。今作では矛先をブッシュ大統領に向け、噛みつきまくっている。
この映画を観てブッシュがイノセントだという者はいないだろう。彼は支持派をも恥じ入らせるようなおバカぶりを露呈している。当然ムーアに対する上からの圧力は相当なものだったはずだ。彼はベストセラーとなった「Stupid
White Men」ですでにブラックリスト入りを果たしていたのだから。しかし、権力からの圧力に屈せず、踏み込んでいくジャーナリスト魂を評価されたのか、あろうことかカンヌで最高賞を取ってしまった。政治的な主張を「映画」の世界に持ち込まれることに反発を覚える者もいただろうが、そんな声は押さえられてしまったようだ。おかげで箔がつき、この映画にNOと言うことはカンヌにNOと言うことだというお触れが行き渡った。圧力をかけようとするものにとっては、歯ぎしりする思いだろう。
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ドキュメンタリー映画との名目であるが、絶対的客観から作られるドキュメンタリーはない、という前提を差し引いても、この映画はターゲットに対してあらかじめ偏向がある。この作品に懐疑的な批評はそこをつく。監督ムーアがアンチ・ブッシュの意図でその主張に都合のいい場面ばかりをニュース・クリップから切りとって、勝手にストーリーを作り上げている、と。しかしムーアが強烈な反ブッシュであることは周知で、彼は堂々と映画の冒頭で観客に意図を明らかにしている。ブッシュ再選を阻止するのである。
ムーアはまず911以前のブッシュをまな板に乗せる。そして9月11日。その後のテロ調査をめぐる疑惑、そしてイラク戦争、そこに送りこまれたアメリカ人兵士たち、そのバックグラウンドを検証する。
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導入は前回2000年の混乱を極めた大領領選挙。アメリカの民主主義選挙に汚点を残すことになったフロリダ州での「限りなくクロに近い灰色の投票結果」をめぐって、疑惑が次々と湧き出てくる。新大統領は就任後の政策決定にも無能ぶりを発揮し、混乱を極める。ついにすべての仕事を投げ出し、彼は休暇を取る。勤務のうち、40%が休暇だったそうだ。そうして国防・国政の中枢を把握することのないまま、9月11日をむかえる。この時点で観るものは不吉な予感に口の中が苦くなっている。
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世界貿易センタービルにジェットが突入するシーンを、ムーアは画像を出さずに音だけでその衝撃を伝えた。スクリーンはブラックアウト、暗闇の中、見ているほうにもその瞬間の激突音、人々の叫びがドルビーサウンドとともにぴりぴりと伝わってくる。自分がもしそこにいたら…観客の想像に強く訴えてくるシーンである。
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側近からニューヨークでのテロ勃発の報告を受けたブッシュはどうしたか?何もせず、そのまま訪問先である子供たちの文学のイヴェントで「ペットのやぎさん」を読み続けたのだ。これもすでに報道されていた周知の事実だが、ムーアはそのときの映像にご丁寧にもストップウォッチまでつけて、大統領が何分間呆然と、なすすべもなく座り続けていたかを見せつけた。テロの犠牲者たちの遺族はこの映像を見て怒りで震えたに違いない。
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ムーアはまたその後のテロ調査に関してさまざまな画策があったと主張する。テロの首謀者オサマ・ビン・ラディンの親族がアメリカに住んでいたこと。その一族を収監することなく即刻帰国許可を与え、母国サウジアラビアに脱出させたこと。ムーアはイラクよりもサウジの地下組織を洗い出すべきだったと暗示している。サウジの巨大石油資本がアメリカ経済にどれほどの影響を与えているか、そのサウジ財閥とブッシュ・ファミリーその他アメリカのコングロマリットとの親密なつながり…。もちろん今や企業が全世界的なネットを張り巡らせているのはわかるが、今国際政治・経済のトップにいる人たちの、こいつがこの会社の顧問で、こいつはここのつながりで、こいつとこいつはこの会社をやってて…という相関図には自分の無知を知らされた。
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そしてイラク戦争。私たちがニュースで”見慣れた”イラクでの戦闘・爆撃シーンの数々。ある大統領側近がイラク「侵入」と言った後「自由化」と言い変えるシーンも挟まれている。アメリカ・サイドでは、イラクで戦死したアメリカ軍兵士の家族に取材し、その母の嘆きと怒りを容赦なくカメラに収めている。
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平和を唱えながら一方で兵器産業で莫大な利益を得ている政治家、戦争をしかけ、戦後協力として自社の開発プロジェクトを成立させる政治家。次々とその具体名が出てくる。(吐き気がするよ。しかしもし私が彼らの側に生まれていたらどうだろう。同じことをしたかもしれない。しない、と否定できないではないか)大統領でさえも、金が金を産むメガ資本のコマであり、あやつり人形にすぎないのだ。
ムーアが今回取り上げたような題材は多くの研究者・ジャーナリストたちがすでに綿密な調査・研究のもとに発表済みのことばかりだ。しかしそんなもの専門家か専門をめざす学生以外読むだろうか?たぷたぷの腹を揺さぶりながら取材してまわる彼のひげづらがポピュラーになったことで、より多くの人が映画館に足を運び、この映画を見ることになった。強引なレトリックには不備やあざとさもある。しかし相手を皮肉り、あざ笑い、揶揄する彼の手法に我々はしばし溜飲を下げるのだ。
「おかしいんじゃないか」「これでいいのか」というムーアの問いに今成す術はないが、彼の問いは小さなトゲのように残っている。彼の仕事を見続けていこうと思うのだ。
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次の標的は誰か?
来月は3年目の9・11。
大統領選挙は11月である。 |
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2004-8-21 |
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更新2004-8-30 |
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