Films index2
directed by Anthony Minghella
2003年12月25日全米公開
by  ise


「リプリー」に続くアンソニー・ミンゲラ監督の新作はオスカー受賞作「イングリッシュ・ペイシェント」にたちもどった文芸大作である。作品としてのおもしろさはさておき、このような作品をピシリと破綻なくおさめる構成力はすごい。すべてがおさまるところにきっちりおさまっているので、見ているほうは安心できるのだ。




南北戦争がはじまり、ノース・カロライナ山間の小さな村コールドマウンテンの男たちも戦場に向かう。インマン(ジュード・ロー)もその一人だ。両親はすでになく、大工仕事や他の農家の仕事を請負ったりして生計をたてている無口な青年だ。新しく赴任してきた牧師の一人娘エイダ(ニコル・キッドマン)はお嬢さん育ちの保守的な娘だが、インマンに強く惹かれている。出征の日、別れを前に、2人はようやくキスを交わすことができた。


戦場のインマンは同郷の男たちが次々と死んでいくのを見、自らも傷を負いながらエイダからの手紙と本を心のささえにしていた。一方、エイダは父牧師を突然失い、経済的に追い詰められた生活の中で途方にくれていた。見かねた隣人サリーが生活力あふれる若い女ルビー(レニー・ゼルウィガー)を農場のパートナーとして送り込んでくれたおかげでやっと危機を脱することができた。お互いに支え合う生活のなかで、ルビーはやがて得難い親友になる。


戦況は悪化し、南軍の敗色は濃く、多くの脱走兵が出ていた。インマンは敗走の途中重傷を負い、生死の境をさまよう。彼は傷も癒えぬまま脱走兵となり、エイダの待つ故郷コールドマウンテンへ帰ることを決意、500キロの道を歩き始める。敵兵として北軍に追われ、脱走兵として南軍に追われながら、苦難の末ようやくコールドマウンテンにたどり着き、エイダとの再会を果たす。しかし脱走兵狩りを指揮する悪農場主ティーグたちが迫っていた・・・。


冒頭からこれでもかという戦場のモブ・シーンである。飛び散る手足、焼け爛れた皮膚、おびただしい血は泥となり、敵味方もわからない阿鼻叫喚図を見せつける。私の頭のなかにはイラク戦争…という言葉が浮かぶ。しかし主人公インマンは戦争に対する是非を語らず、必要なら戦うだけだと言う。(南北)戦争のイデオロギーに関しては一言も書かれていない。黒人奴隷もちらりと登場するだけである。無口なインマンはセリフも少なく、その心情はもっぱら音楽に語らせている。ブルー・グラスの実力派アリソン・クラウスの声が染み渡る。


インマンは苦しい旅の中でさまざまな人間に出会う。とりわけ印象的だったのは森に一人住む魔女のような老女だ。すべてのものにそれぞれの役目があり、それを果たすために生かされている…そう唱え、自給自足のナチュラリスト生活を送る仙人のような老女である。そして赤ん坊をかかえた若い戦争未亡人サラ(ナタリー・ポートマン)。インマンは一夜の寝床と食料をもとめて彼女の家の戸をたたく。翌朝、家は飢えた北軍兵士に襲われる。インマンは3人のうち2人を殺し、一人の若い、心根のやさしい兵士(キリアン・マーフィー)を逃がしてやろうとする。しかし走り去ろうとするその背にサラは容赦ない銃弾を浴びせるのだ。ナタリー・ポートマンはすばらしかった。主役を交替してもよかったくらいだ。(うわさではリュック・ベッソン監督の「レオン2」がひそかに進行中らしい。)


典型的な悪漢、農場主ティーグの手先となって脱走兵狩りを嬉々としてやってのける少年ボージー(Bosie、オスカー・ワイルドの愛人アルフレッド・ダグラス卿の愛称)役にチャーリー・ハナム。プラチナブロンドにヘアブリーチして尋常さを欠いた悪魔的少年を演じている。またジャック・ホワイトがギター弾きジョージアとして登場。愛嬌を振りまいている。オスカー受賞レニー・ゼルウィガーのルビーは、きついなまりのぶっきらぼうなしゃべりでまわりを圧倒しながら、どこか少女のようなあどけなさを残している女だ。酒飲みの父にネグレクトされ、幼いころから自分一人の才覚で生きてきた彼女。最後には父との絆を取り戻し、幸せな家庭を築いていく。地に足のついた女だ。


インマンがめざした故郷、コールドマウンテン、そこは言わば「黄色いリボンが結ばれた場所」である。自分の帰りを願って黄色いリボンを結び、待ってくれる人がいる場所である。家族、友人、あるいは自然、大地。そういうものとの結びつき(Bond)の原点となるところ。それが大切なものだったということに、失ってからはじめて気づいたりするんだけど。




端正な映画ではあるけれど、ラブ・ストーリーというにはスパークが足りない。まあ、カップルが終始500キロも離れているのでは熱くなりようもないが。ようやく2人が再会し、はじめて結ばれる前に儀式としての「結婚」があったり(エイダは牧師の娘)まだるっこしい(笑)。ベッド・シーンもひたすら優雅にロマンティックに展開する。ありきたりだが、クリエイティヴになりようもない筋書きなのでしかたない。


キッドマンの映画を見るのは始めてである。あの短い鼻がいかにも白人女のいじわるな感じで、どうも好きになれなかったのだ。ハリウッドをしょって立つ演技派美人女優と言われても、「ケッ」であった。しかし今回、前半のお嬢様姿はいけすかないが、髪振り乱し、なりふりかまわなくなってからがなかなかきれいだった。おんなおんなした役よりもマニッシュなほうがずっと美しい。


ジュード・ローも「オスカー・ワイルド」や「リプレイ」を見たが、皆が騒ぐほど美しいとは思えなかった。おそらく端正すぎてインパクトに欠けるんだろう。そのインパクトのなさが今回のような文芸大作向きなのかもしれない。文芸大作とは時代を超えて愛されるものである。今の気分を代表するかのような「時代の顔」を持っていてはいけないのだ。キッドマンも同様でグレース・ケリーのようにひたすら美しくあらねばならない。そこに普遍性が求められる。


ロケ地はルーマニア。コールドマウンテンの美しい自然風景はすべてそこで撮影された。


2004-05-01
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