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アレックス・コックスが語る
サム・ペキンパーと『ガルシアの首』


ぴあ・フィルム・フェスティバルの一環として、アレックス・コックス回顧展が6月後半、東京国際フォーラムで行われた。


エミリオ・エステベス主演、初長編監督作品『レポマン』ゲーリー・オルドマン主演『シド&ナンシー』はもちろん、超目玉としては、日本未公開の短編処女作『Edge City』(1980)、最新作『Revengers Tragedy』を先駆け公開。世界初のアレックス・コックス回顧展、それも一般公開に先駆け『Revengers Tragedy』を見ることが出来るなんて!仕事の都合で、他の作品鑑賞は全滅・沈没…。はぁ…。(ため息)が、『Revengers Tragedy』だけは…と、チケット購入のため、インターネットで前売り状況を調べると、なんとそこには、輸送トラブルでプリントが日本到着間に合わずというニュース…。急遽、彼が敬愛するサム・ペキンパー監督作品、『ガルシアの首』が振替上映される運びとなった。

だが正直、これには実にがっかりした。と言うのは、『Revengers Tragedy』はアレックス・コックスの生まれ故郷、リヴァプールでの撮影に加え、俳優陣が本当に素晴らしいのだ。現在イギリスで活躍している、実力演技派たちが揃いも揃った。名前を挙げると・・・


クリストファー・エクルストン(『Shallow Grave』では、ユアン・マクレガーよりも断然クール!個人的に、若手(と言っても30代)イギリス俳優陣では、彼とスティーヴ・マッキントシュに期待を寄せている)

デレク・ジャコビ(『Love is the Devil』でのフランシス・ベーコンの熱演忘れられず!)

エディ・イザード(コメディアンもこなす華麗なる俳優!『ヴェルヴェッド・ゴールドマイン』のマネージャー役が印象強し)

そして、イギリスのゲイ・ドラマ『Queer As Folk』に、主人公の同級生役で出演していた、カーラ・ヘンリーの顔もあるではないか!とまぁ、痛いところをつかれて、非常にエキサイティングしていた次第。(涙)
Chritpher Eccleston

Derek, as Francis Bacon

Eddie Izzard




さて、回顧展に話を戻そう。プリントが届かなかったからか(何で届かんのじゃ!)、『ガルシアの首』はフリーで見ることが出来るという。おまけに、この映画に関する、監督のトークショーもあり。新作は上映されずとも、こういった企画も面白い!勇んで、会場に向かった。


開場まで、あと10分。ロビーを見渡すと、監督がニコニコ、関係者っぽい人たちと話しているではないか!おおおぉ!バリバリ、パンキッシュで社会的な映画を撮り続けてきた人だったので、その笑顔に一瞬、眩暈を感じながらも、ほっとした。

きっと、インテリ雰囲気を前面に醸し出し、あまり笑顔を見せぬ人だろうなぁと思っていたから。いかにイメージというのは恐いものか…。開場時間となり中に入り、そこで待つことまた10分、アレックス・コックスがホールの袖から現れた。またしてもあの笑顔!おまけに彼は、背がめちゃ高い…。


トークショーと言っても、映画上映が控えているからか、約20分程度の短いものであったが、コックスは、ペキンパーと、『ガルシアの首』の魅力について熱く語った。何故、数ある彼の作品群から『ガルシアの首』をコックスは選んだのか?
 

『ガルシアの首』は、タイトルよろしくガルシアという男の首を巡り、事件に巻き込まれていく主人公の復讐ドラマで、一方、『Revengers Tragedy』は、妻を殺された主人公が、これまた復讐に執念を燃やすストーリーだ。共に「復讐」という言葉がキーワードになるが、『Revengers Tragedy』は、17世紀の作家トーマス・ミドルトンの同名古典劇を題材とし、現代風にアレンジするのに、『ガルシアの首』から多大なインスピレーションを受けたとのことだ。


アレックスの新作
Revengers Tragedy
サム・ペキンパー監督
人と作品


それからは、ペキンパーがいかに偉大なる監督であるかを話すコックス。彼はマカロニ・ウェスタンものでは、サム・ペキンパーの作品が唯一好きだという。ペキンパーと言えば、かの名作『ワイルドバンチ』で有名だが、彼の作品はアクション映画の原点ともなり、ジョン・ウー、ウォルター・ヒル、アーサー・ペンなどが影響を受けたということだ。


コックス曰く、『ガルシアの首』はペキンパー映画の中で最も優れた作品で、最もパーソナルなものだそうだ。また、この映画を製作している時が、彼にとっては最高に充実した、幸せな時であっただろうと推測した。故に、ペキンパーの人生を語る上で、『ガルシアの首』こそ、キーとなるのだろう。


まだ続きがある。コックスは、オックスフォード大学で法律を専攻していたが、ドラマに興味を持つようになり、ブリストル大学、そしてUCLAで映画を学ぶため、1977年、単身アメリカに渡った。脚本を書きながら、後に、映画監督としてチャンスを掴んだ彼、自分にとってのヒーロー、ペキンパーに会いたい!と思い、トライしたようだが、その夢は叶わず。映画監督というのは、とても個人主義者で、なかなか人とは会わない…、コックスの見解である。


が、ある時、『ウォーカー』に出演したテッド・ハリスが、「ペキンパーはパラダイスコームに、トレイラーで一人住んでいた。彼にはもう会うことは出来ないが(ペキンパーは、過度の飲酒と麻薬摂取により、晩年は体調をくずし1984年12月28日、心不全により死去)彼のトレイラーなら買うことが出来るぞ」とコックスに連絡。敬愛する監督のトレイラー!興味を持ってその場所に行ってみると、トレイラーの中は、銃で撃った穴だらけ、ナイフが刺さった傷跡がひどく、コックスは「こんなんじゃいらない!」と思ったそうだ。


そのサム・ペキンパーは「ハリウッドは金ばかりだ。芸術家としての作品をつくるために闘いつづける」と言った。ハリウッドの華やかな世界を嫌い、あくまでも孤高に、映画という芸術に手加減なしで挑んだ彼の姿勢を、コックスは敬愛して止まないのであろう。たとえ評論家たちに非難されても、真っ直ぐ向かう強さ。そういった映画に対する姿勢と愛情こそ、コックスとペキンパーが持つ共通点ではなかろうか?そう思ったのは、きっと私だけではあるまい…。


『ガルシアの首』は今回初めて鑑賞したが、コックスのトークショーにより、映画だけでなく、ペキンパー本人にもかなりの興味を持った。お目当ての『Revengers Tragedy』はやはり鑑賞したかったが、また次の機会に。




ティピカルなイギリス英語で、ユーモアを取り入れた彼のトークショーは、人を飽きさせないグレイトなものであった。そして何よりも、『ガルシアの首』上映終了後、「ロビーでアレックス・コックスと映画について語り合って下さい!」という主催者の粋な計らいに、ガッツポーズを取った筆者であった。パンフレット売りのお兄ちゃんも、ここぞとばかりにサイン貰ってました。微笑ましい。


そういや、テリー・ギリアム監督作品『ラスベガスをやっつけろ!』の脚本を担当したんだよね、コックスは…。そのセンスがやはりかっこいい。


古國 宴代  Utayo Furukuni

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