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「音楽遺伝子」というものがあるとしたら、リチャード・ホーリーはまちがいなくそれを受け継いでいるだろう。


彼は当初自分の音楽的背景についてあまり語らず、「典型的な北部の労働者階級の家庭に育った」と言っていた。しかし、ロングピグスの人気が上昇し、パルプとの活動が頻繁になるにつれ、ギタリストの父とシンガーの母、自身も14歳から叔父のバンドでツアー、とどこが典型的な北部の労働者家庭なんじゃ?と言いたくなるような彼の経歴が紹介されていく。


両親の世代からのブルース、カントリー、ロカビリーの継承、ジミ・ヘンドリックスへの憧憬と共感、ガレージ・サウンドへの傾倒。これらの音楽的蓄積にはある種の畏怖を感じてしまうほどだ。しかし彼は多くを語らず、ただギターを弾き歌うだけなのだ。自分の努力の痕跡を決して人目にさらさない。・・・クール。


裕福な環境に生まれる恵まれた子供を「銀のスプーンをくわえて生まれてきた」というが、「彼はギターをかかえて生まれてきたとしか思えない」とよく古國宴代と話したものだ。彼は友人とただ道を歩いているような時でも周囲から際立っていて、我々は「リチャードはいつも眼に見えないギターをしょってるね」と感嘆していた。眼に見えないギター=ギタリストとしての矜持、が自ずと発せられているからなのだろう。


ロングピグス解散前後の「ナイトメア」的なもつれをくぐり抜け、パルプを経て、原点シェフィールドに立ち戻って作ったソロデビュー・ミニ・アルバム 『Richard Hawley』、そして高い評価を得たセカンド 『Late Night Final』。2月10日には真価を問われるサード、『Lowedges』 が発表される。リリースを控え多忙な彼とメイル・インタヴューを行った。





TOTAL LEE!
The Songs of
Lee Hazlewood


●昨年リー・ヘイゼルウッド(50年代、60年代を代表するシンガー・ソングライター、プロデューサー)のトリビュート・アルバムを制作したきっかけはなんだったのですか?


その話は当初俺とジャーヴィス(パルプ)に持ちこまれてきたんだ。俺たちが選んだのは50年代にサンフォード・クラークがレコーディングした、ものすごく古い曲だったんだけど(『A Cheat』)、それって実は俺が子供のころからずっと聞いてる曲なんだよ。


Lee Hazlewood
(1929-) オクラホマ生
50-70年代を代表するポップ・イコンをプロデュース。絶頂期とされる65-67の代表曲を収録した2枚組『These Boots Are Made For Walkin'』が発売されている。


Sanford Clark
(1935-)オクラホマ生
50年代から活動するカントリー/ロカビリー/ポップアーティスト
●ヘイゼルウッドの曲や彼自身のどういうところに惹かれたのですか?


リーの音楽はもう30年近くというものずっと身近にあったんだ。俺にとって彼の音楽は「酸素」みたいなものだと思っている。


●プライマル・スクリームのボビー・ギャレスピーとモデルのケイト・モスがヘイゼルウッドとナンシー・シナトラの 『Some Velvet Morning』 のカヴァーを出しています。イギリスのあなたの世代でヘイゼルウッドは今もポピュラーなのですか?


うーん、彼らが出したカヴァーは聴いてないから何とも言えないなあ。プライマル・スクリームはグレイトなバンドだってくらいしか俺には言えないよ。



Late Night Final
「彼はいつも眼に見えないギターを背負っている」



●アルバム 『レイト・ナイト・ファイナル』 Late Night Final はアメリカでも非常に高く評価されています。これはアメリカに「ロード・ムーヴィー」の伝統みたいなものがあって、共通する心情があるからかもしれないと思いました。あなたの歌の主人公たちはたいてい「どこかに行く旅の途中」だし、自分が置き去りにしてきたものを想っていますね。


アメリカは大きな国だし、一時的滞在者・旅行者がとても多いからね。俺自身、1つのところに落ち着けない男だし、肉体的にも精神的にも絶えず次のところに移行してきている。だから主人公たちのそういう心情がわかるんだろうね。でもそういう心情を俺はシェフィールドの小さな子供だったころからずっと持ち続けてきたように思うんだ。



Lowedges
● 『レイト・ナイト・ファイナル』 にはうたれるような孤独を感じます。「残酷」、この言葉をあなたはしばしば使っていますが、この残酷さと、優しさが交互に曲にあらわれてきます。このまったく違う2つの感情、そのミックス、これがアルバムのメイン・テーマということでしょうか。


人生はハードなもの・・・だろ?


Solitude
Brutality
Tenderness
●『レイト・ナイト・ファイナル』 のもう1つのテーマは「家族」です。父親であることはあなたの曲作りに影響をあたえていますか?


俺の人生のすべてに作用してきてるよ。


●もしあなたの子供たちが「ミュージシャンになりたい!」と言ったら、彼らに何て言います(笑)?


練習しろ(笑)。


●私の友人のひとりが、イースト・ロンドンでのあなたのライヴに行ったのですが、とても驚いていました。あなたはオーディエンスとおしゃべりをしたりして、とてもなごやかでオープンな雰囲気だったということでした。以前のあなたにはどこか人を寄せつけないような距離感がありましたよね。その点、あなた自身変わったと思いますか?


あと35年くらいのちには、人と会話ってものができるようになっていたいと願ってるよ(笑)。そのころには人々も変わってるだろうからね。


Longpigs ●あなたは変わらないということですね(笑)。


その友人ですが、彼女は2000年、ロンドンのHeavenでのロングピグスのショウも見ているんです。彼女は「ロングピグスが解散するのは当然だと思った。今リチャードがやっていることと、あの時ロングピグスがやっていたことはまったく違う」という感想を持っています。


あなたは今まで決定的なコメントをしていませんが、ロングピグスが解散に至った音楽的理由はいったいどういうものだったのでしょうか?


もう昔のことだよ。当時は本当にあのバンドにいることが好きだった。そしてそこから前進したんだよ。俺たちが解散したのは、ビジネス・マネージメントが悪かったってことが一部分にある。そして自分たちが本当に疲れきっていたこと。


俺とサイモン(ベーシスト)には子供もできてた。もしバンドに関わっているみんなが不満足な状態なら、音楽への自分たちのあの努力や愛情はなんの意味もないと思ったんだ。


俺はソロ活動をやるためにロングピグスを離れたんじゃない。人生を始めるためにそうしたんだ。ソロ云々はあとから、まったく偶然に起きたことなんだよ。


As a producer ●あなたから直接答えが聞けて、やっと納得できたように思います。


最近のプロジェクトにもどりましょう。シェフィールド出身、Hoggboyの曲の制作に関わっていますが、プロデューサーとしてはバンド・アーティストにどんなクオリティを求めますか?


情熱、フィーリング、目的、いい曲。お決まりのことだよ!


●プロデューサーとして一緒に仕事してみたいバンド・アーティストはいますか?


残念ながら、俺が仕事したいと思うのはもうすでに亡くなってる人たちが多いんだ。


俺はまだ未完成のプロジェクトを新しいアーティストたちと一緒にやるのが一番好きだな。より楽しいし、レコード会社との胸くそ悪い交渉ごとはより少なくてすむからね。


Patrick O'Brian
ナポレオン時代のイギリス海軍を舞台に書かれた冒険譚 Aubrey / Maturin シリーズが有名。ラッセル・クロウ主演で映画化される。『パピヨン』の英訳、ピカソの伝記でも知られる。

Laurel and Hardy
イギリスの超有名なコメディアン。Stan Laurel and Oliver Hardy

Eddie Cochran
50年代のロカビリー・シンガー。ジェームス・ディーンに似た甘いマスク。人気絶頂の60年イギリス・ツアー中に22歳の若さで自動車事故死。 (1902-1969)

Skip James
30年代のデルタ・ブルース、ベントニア派プレーヤー。60年代のブルース・リヴァイヴァルで再注目された。ギターとファルセット・ヴォイスの奇妙な融合。エリック・クラプトンがクリーム時代にスキップのI'm
So Gladをカヴァーした。
●以前チャールズ・ブコウスキのことを話していましたが、最近はどんな作家を読んでいますか?


パトリック・オブライエン、ローレル・アンド・ハーディやエディー・コクラン、スキップ・ジェイムズの伝記。それにスタインベック、ジャック・ロンドン、ヘミングウェイなんかをたくさん読む。最近とても興味深いスパイス貿易の歴史に関する本を読んだんだけど、著者は思いだせない。


●詞を書くときに読んだものから触発されることはありますか?


俺はただ自分にとっての真実を伝えようとしているだけだよ。


●最近聴いている音楽を教えてください。


ノーマン・グリーンバウム、チェット・アトキンス、ハウリン・ウルフの海賊盤、レモン・ジェリー(俺のワイフが好きなんだ)、ジョン・D・ラウダーミルク。昨年のクリスマスにチャーリー・パットンの素晴らしいボックス・セットをプレゼントされてね、以来、片時も放せない。ほかにも、聴いてて絶対退屈しないものがたくさんあるよ



●ニューアルバム 『Lowedges』 が2月に出ますが、どういった曲になっているのでしょうか?『Late Night Final』 の延長線上にあるのでしょうか?そこからどのように発展したのでしょうか?


それは聴いてからの君たちの判断にまかせるよ。


● 『Lowedges』 に合わせてツアーするんですか?あなたはツアー嫌いで通ってますけど?


残念ながら(笑)イエスだね


Andy Cook (drums)
ライトハウス・ファミリーのアルバムに参加

Colin Elliot (bass)
パーッカショニスト、ベーシスト。Cloud9の『Millennium』で共演。『Late Night
Final』での共同プロデューサー、エンジニア。

Simon Stafford (keyboards)
ロングピグスでの盟友。リチャードのソロ活動スタート時から本来のキーボードで参加。

Shez Sheridan (guitars)
●ではツアー・メンバーを紹介してください。


アンディ・クック (ドラムス)
コリン・エリオット (ベース)
サイモン・スタッフォード (キーボード)
それにシェズ・シェリダン (ギター)だよ。
Up








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