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セント・パトリック・デイを翌日にひかえた3月下旬の日曜、早春のロンドンはよく晴れ、暖かかった。この日、スピタルフィールズマーケットにあるカフェ、スピッツで、フィルム・メーカー、シェーン・オサリヴァンに会った。 次作『WEEKEND』の準備に入ったと聞いて、興味津々のPUKKA。いったいどんな映画なのか根堀り葉堀り聞き出そうというのである。


Shane O'Sullivan


シェーン・オサリヴァンはアイルランド、ダブリン生まれ。トリニティー・カレッジ在学中より舞台脚本を書きはじめ、フィルム・スクールで映画製作の基礎を学んだ後、短編制作の経験を積み、その後「A to Zen」 「 Second Generation」を脚本・監督した。TVドキュメンタリーにおいても自らのプロダクションを率いて企画・制作するインディペンデントなフィルム・メーカーだ。日本での滞在経験もあり(2年も!)、アジア映画に対する思い入れも深い。インタヴューを行ったスピタルフィールズはロンドン・イーストにある。「ロケーション」にこだわる彼のテリトリーでもある。もの静かな、文学青年といったたたずまいの彼だが、確実に実績を積み、映画制作を手がけてきたという内なる自信がにじみ出ていた。






●映画『A to Zen』『セカンド・ジェネレーション』に続き、次作『WEEKEND』のキャスティングのためにパリまで行かれたそうですが、いったいどんなストーリーなのですか?



セネガル人のタクシー・ドライヴァー、中国人のウェイター、それにアイリッシュのラスタ、この3人の男たちが次作の主人公なんだ。3人はそれぞれ異なったバックグラウンドを持っているんだけど、みな同じような人生の転換期に来ているところなんだ。このセネガル人のタクシー・ドライヴァーのオーディションのためにパリに出向いたんだよ。フランスの旧植民地だったということもあってパリはセネガルや他の西アフリカ系の人たちが集中してるところだからね。パリでこの役の俳優を見つけるのがベストだと思ったんだ。


●するとアフリカ系フランス人、しかも英語を話す俳優を見つけなければならないんですね。


英語を話すことは必要だけど、背景から言うと、フランスなまりの英語、ってことなんだよ。ちょっとトリッキーだけどね。僕たちはフランス系の黒人俳優が出演している映画を何本か見たんだ。その中で、ユベール・コンデに目をつけたんだよ。マチュー・カソヴィッツって知ってるかな?フランスの映画監督で、最近俳優としても仕事をしてる有名な人。1994年の彼の『憎しみ』(原題La Haine 英語タイトルHate、この作品でカンヌ国際映画祭監督賞受賞)はすごくよかった。で、そのカソヴィッツの最初の2本の作品にこのユベール・コンデが出てるんだよ。(*最初の2本の作品:『憎しみ』と他 Metisse 英語タイトルCafe au Lait )それですぐ彼のエージェントとコンタクトを取ったんだ。他にも何人かの俳優と会ったよ。コンデには脚本を送ってあったからそれについていろいろ話をしたよ。俳優のうち2人はパリの劇場に出演していたので、夜劇場に行って彼らを見、翌朝脚本について話をしたりね。3日ほどパリにいたんだけど、まだ誰を使うか決定していない。2,3ヶ月のうちにキャスティングを決めなければならないんだけど、これは非常におもしろいプロセスだよ。


●俳優の中では誰があなたの注意を引きましたか?


ユベール・コンデには出てほしい。彼のルックス、肉体的存在感はとても力強いものがある。年齢的にもぴったりだし、彼はこの脚本で僕たちがやりたいことを理解しているよ。この脚本はマルチ・カルチャー的なものだし、キャスティングも従来の型にはまったようなものではないんだ。


●3人の主人公がいて3つのストーリーがある、ということは、オムニバス映画ですか?


いや、これは『ショート・カッツ』的なものだよ、ほらロバート・アルトマンの『ショート・カッツ』って映画のような。『マグノリア』だとか。


●3つのストーリーがオーヴァーラップしているんですね。


それぞれが互いに連結してからみあってるんだ。『ワンダーランド』(邦題『ひかりのまち』マイケル・ウィンターボトム監督、2000年)のような映画。今よく使われてる手法だよ。


●前作『セカンド・ジェネレーション』では、あなたが住んでいるブリック・レインが舞台でした。あの辺りは、とてもエネルギーがあり、多くのアーティストも住んでいますね。今作もロンドンが主な舞台だそうですが、ロンドンのどこで撮影をするんですか?


中国人のウェイターの話はチャイナ・タウンだし、セネガル人のタクシー・ドライヴァーはロンドン中を走り回るし、アイリッシュのラスタはロンドンの郊外、都会と田舎のボーダーにいる。この3人を通して、ロンドン全体を描いているんだ。


●それぞれのキャラクターはどこから生まれたのですか?何にインスパイアされましたか?あなたのイマジネーションから?


もちろん僕のイマジネーションからだけど…

●何かそのイマジネーションをクリックするものがあったと思うんですが。


そうだね。僕にとって、キャラクターはロケーションから生まれるものなんだ。


●ロケーションから…。あなたは「ロケーションに住むというアイディアが好きだ」とおっしゃっていました。ブリック・レインには、奇妙な人々やロケーションが全て揃っているとも。インスピレーションに溢れているのですね!


そう。ここ(スピタルフィールズ)、それに今住んでいるブリック・レインには、移民たちがあふれている。セネガル人じゃないけど、バングラデシュ人のミニ・キャブ・ドライヴァーがいてね、それをキャラクターのベースにしたんだ。それから脚本のために色々リサーチした。セネガルという国、バングラデシュとの違いなどについてね。僕はチャイナ・タウンが好きなんだけど、中国人のウェイターに関しては、あのエリアをもっと探索したよ。20世紀の終わりが近づいてきてる…いったい彼らはどうするのか…。アイリッシュ・ラスタは…僕にすごく近いかも(笑)。


●あなたは全然ラスタには見えませんけど(笑)。


(笑)2年前ジャマイカへ行ったんだ。ジャマイカ音楽が好きだしね。主人公はダブ・レゲエに夢中になって、仲間とロンドンでジャマイカン・カフェをオープンするんだ。でも次第に例のコーヒー・チェーンがそのエリアに進出してきて、ついにはカフェを閉めなくてはならなくなる。若いクリエイティヴな人たちが何かを作り出そうとしてチャレンジするんだけど、世界化した企業の力につぶされてしまうんだ。


●あるいは、キャピタリズムに?


そうだね。それぞれが異なったストーリーなんだけど同じテーマを扱ってる。ミニ・キャブ・ドライヴァーも同じように自分のビジネスをやろうとするんだけど、地球化した巨大企業に対してインディペンデントでいるのはむずかしい。彼はシティのビジネスマンにアプローチされるんだけど、それはある意味彼のライフスタイルが脅かされるということなんだ。3つのキャラクターが次第につながっていくのは、この3人が同じような問題に直面しているからなんだ。彼らは他の方法を見つけなければならない。決断の時、いったいどうするか?


●ある意味主人公たちは成功できないでいる人たちですが、希望はあるのでしょうか?


最後には、希望があるよ。それぞれの人生がとても選択のむずかしいものだけど、彼らは前進していく、続けていくと決意しているんだ。


●タイトルの『WEEKEND』はどこから?

あんまりいいタイトルとは思えないけど(笑)、シンプルにしたかったんだ。物語は、金、土、日、この週末の3日間に起こるんだ。しかもこの3日間ていうのは、サッカー・ワールド・カップの真っ最中というわけ。ほら、昨年のワールド・カップ。アイルランド、セネガル、中国、みんな出場してただろう(笑)。


●ああ!それでこの3国なんですね(笑)。撮影はいつからですか?


まだキャスティングが終わってないし、制作費のこともあるんだけど、できたら9月の始めから撮影に入りたいと思ってる。6週間の予定だ。


●海外ロケなどは?


いや、撮影はすべてロンドンで行うよ。


●あなたはエージェントと契約していますが、その最大の利点とはなんでしょうか?


僕たちは『レモン・クラッシュ』という短編を制作していろんな所に送ったんだ。これは『WEEKEND』の中国人ウェイターのストーリーの前半部分なんだけど、それをある大手代理店のエージェントが気に入ってくれて、作家・監督としての僕のエージェントになってくれた。制作会社が脚本を検討するときにエージェントは信頼を与える。エージェントから送られたものだからすぐ読んでくれるからね。でも結局作家としては、人に見てもらえるたくさんのプロジェクトが必要なんだ。今のところ、『WEEKEND』が僕の唯一のプロジェクトだから…しかもアート・フィルムだし。マルチ・カルチャーなものだけど、コマーシャルな要素はあまりないし。アート・フィルムに興味を示すプロデューサーは少ないしね。


●アート・フィルムと商業フィルムとに、エージェントは分かれているんですか?


いや、僕のエージェントはどちらにも強いよ。でもこの『WEEKEND』に限ってとてもアーティスティックなものなんだ。たぶん僕の次の脚本はもっとコマーシャルかもしれないよ。今企画してるのは、ヒッチコック・スリラーなんだ。アイルランドが舞台でね。もしヒッチコックが今現在アイルランドを舞台にして映画を作ったらどんなだろうって(笑)。それが僕のコンセプト(笑)。


●じゃ、ヒッチコック監督みたいに自作にちらりとカメオ出演したりとか?


(笑)かもね。


photos:ISE


●制作費に関してですが、プロデューサーを現在もさがしているという状況ですか?



僕は自主制作主義なんだけど、プロデューサーのアニーサ、彼女もこの辺の住人なんだけど、彼女と前作を共同プロデュースしたんだ。それで『WEEKEND』も一緒にプロデュースすることにしたんだよ。いろんな会社に分けて制作するより、自分たちの制作会社を作ってやったほうがうまくいく。彼女は大きなプロデューサー組織の議長でコネクションがあるし、僕には僕のコネクションがある。アイリッシュ・フィルム・ボードやヨーロピアン・フィルム・エージェンシーが協力してくれたし、ブリティッシュ・フィルム・カウンシル、アイリッシュ・フィルム・ボードにも制作依頼する予定なんだ。


●若い映画作家にとってはとにかく制作費の問題が一番難しいものですね。プロデューサーやスポンサーに映画の意図を伝えたり、制作依頼するときにあなたが一番重視するものはなんですか?


一番大事なのは脚本(スクリプト)だと思う。すべてが脚本に込められていなくてはだめだ。他のすべてがよくても脚本が悪かったら誰も興味を示さない。すべては脚本にかかっている。それがまずスタートだ。もし脚本がよければ、次はそのチームが過去にどんな仕事をしてきたか、その経験が問われる。これは第1作を撮ろうとしている監督には1番難しいところだ。経験がないんだからね。僕は前に『セカンド・ジェネレーション』という長編を撮っていたから、それが短編を撮るのを助けてくれたし、短編を撮っていたからアイリッシュ・フィルム・ボードから長編を作る支援を得られた。まったくのステップ・バイ・ステップのプロセスだよ。ここまで来るのに7年かかった。スタートして、すぐにジャンプ・アップするのは難しい。とにかく時間がかかるんだ。脚本家・監督でいたかったら、とにかく自分の能力を証明しなくてはならない。いい短編を撮っている、というのがとても重要になる。そして脚本。こいつなら長編をやれそうだ、とプロデューサーやエージェント、映画界の人たちが動いてくれて…運がよければブレイクが訪れるってわけ。


●あなたは脚本が最も重要だとおっしゃいましたが、その脚本をもっとコマーシャルなものにしたいからとプロデューサーが書き変えを要求してきたら応じますか?


それはプロデューサーのタイプによると思うよ。脚本を気に入ってくれてもコマーシャル映画には短すぎるときは、「パス」って言うだろうし。脚本の書き変えは発展のプロセスだと思う。何段階ものドラフトを検討するものだし。プロデューサーは映画をどう売りこむか、観客にどううったえるかを常に考えているし、商業的な要素を取り入れようとする。要はコマーシャルな要素を取り入れつつも、脚本の当初のオリジナリティを失わずにストーリーの核を明確にしていくこと、脚本を新鮮なものにしていくこと、だと思う。


●実際あなたが脚本を書くときには「観客」を意識しますか?それともあくまで自分の考えを優先させますか?


書くということを学ぶにつれ、より観客を心に置くようになったかな(笑)。でもやはり1番大切なのはオリジナリティだと思うし、それを失わないことだと思う。だからバランスを保とうと努力してるよ。


●『A To Zen』では、あなたのワイフの弟さんが、サウンド・トラックを担当していました。奇妙で実験的な音楽だったそうですね。今作では、どんな音楽を使いたいと思っていますか?


3つのストーリーがあるからね。レゲエは使うと思う。ダブ・レゲエだね。


●「ベストな映画監督たちは、ベストなサウンドにこだわる」あなたの言葉が印象的でした。音楽と映画の関係性はとても重要です。フレーミング・リップスなんかどうですか?(笑)彼たちも映画を制作していますし、ライヴも体験したことですし。(笑)


(笑)どうかな。1月にリップスのライブに行ったんだけど、すばらしかったよ。とても深遠な、哲学的なことを、シンプルな、誰にでも理解できる言葉と音で表現している。わかりやすい表現の奥に非常に深いものがあるんだ。あれは誰にでもできることじゃないね。


●もしギャラなど関係なかったとしたら、あなたが今1番仕事をしたい俳優は誰ですか?


うーん…そうだな。Donnie Darkoに出ていたジェイク・ギレンホールかな。とにかく彼はいいよ。サンダンス映画祭で話題になってたけどね。とにかく自分と同世代とのコラボレーションがいい。いろんな人たちとの出会いがあるしね。


●これまであなたはTVのためにドキュメンタリーなども制作してきましたね。たとえば、「Music To Write Home About。あなたにとってドキュメンタリーと映画との違いは?ドキュメンタリーは「自分を出さないこと」が重要な要素で、逆に映画は自分をどんどん投影します…。


確かにドキュメンタリーと本編映画の違いはあるよ。ドキュメンタリーはセルフ・レスの要素がある。でも僕はドキュメントを撮るときでも、自分のドラマ、ストーリーをそこに投入している。ドキュメントでは実在の人物の中にそのドラマを投入していくわけだし、映画では現実にはいないけれど、自分の頭の中のキャラクターでドラマを作っていく。その違いだけなんだ。


●ドキュメンタリーで今とても話題になっている『ボウリング・フォー・コロンバイン』、ごらんになりましたか?


うん、見たよ。


●マイケル・ムーアの手法についてどう思われますか?


確かにとてもパワーがある。でも彼のエゴが入りすぎてるように思う。エゴマニアックなところがあるよ。それとドキュメンタリーにはまっすぐに通ったゆるぎないストーリーラインが必要だけど、彼は揺れているね。


●難しい題材ですしね。抜群のタイミングで制作されましたけど。

タイミングよすぎるくらいだよ(笑)。


●制作費の関係もあって、最近デジタル・カメラを使う監督が増えてきましたが、あなたはどうですか?


とんでもないよ!絶対使わないね。フィルムとは色の発色がまったく違うし、遠近感も消えうせてしまう。それに大きなスクリーンでは粒子がめだって話にならないよ。確かに編集作業は楽だろうけど、僕は絶対使わない。伝統的やり方でいくよ!


●わかりました…(笑)さて来週にはトルコ映画祭に行かれるそうですが、その目的は?


フィルム・カウンシルが若い映画制作者たちにこういった機会を与えてくれるんだ。自分たちの作品をプロモートしたり、他国の映画制作者たちと情報交換したり、交流したり。トルコ映画はあまり知られていないけれど、ぼくにとっては非常にアジア的な感じがする。僕はカンボジアにも行ってきたんだけど、なにしろアジア的なものにとても惹かれるんだ。


●イラン映画はどうですか?キアロスタミ監督とか、『カンダハール』を撮ったマクマルバフ監督?


彼よりもあの女性監督のほうが好きだな。(サミラ・マクマルバフ、監督の娘)彼女の「The Apple」や「Blackboards」。非常にシンボリックで好きだよ。

●さて完成した『WEEKEND』を映画祭に出品するとしたら、どの映画祭に出したいですか?


そうだな。サンダンスは今じゃコマーシャルに成り過ぎたからね。ハリウッドが目をつけて利用し始めてるだろう?カンヌはやはり世界中から映画人が集まってくるすばらしい映画祭だよね。でも『WEEKEND』を出すとしたら、サンフランシスコ映画祭かな。


●日本であなたの映画を見たいのですが、そのようなプランはありますか?


今のところ以前の作品を出す予定はないんだ。でもこの『WEEKEND』がこっちで成功したら日本でも公開されると思うんだ。そうすれば、僕の以前の作品にも必ず興味を持ってくれると思ってるからね。僕が尊敬するジム・ジャームッシュやウォン・カーウァイ、ビジネスマンとしても長けてるだろう?それはなんとか制作費を得て次の作品につなげたいからなんだよ。ずっと映画を撮り続けていくためにね。僕も同じだよ。


●わかりました。それまで待ちます!今日はどうもありがとうございました。


by  Utayo Furukuni / Yoshiko Ise
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